ご案内

仕事と育児・家事の両立支援第四は、勤労者の仕事と家事の両立支援である。
「社会民主主義レジーム」では、安価で充実した保育サービスが政府により提供される等、女性の社会進出が政策面で積極的にサポートされてきた。
一方、「自由主義レジーム」では、低コストの民間保育サービスが発達することで、女性の職場進出が支えられてきた。
さらに、一九九〇年代後半のアメリカでは、有能な女性人材の確保のために、ジョブ・シェアリング(元来は一人分の職務を二人が労働時間を分け合って分担して行い、評価・処遇も二人が共同して受けるという働き方)やテレワーク等、女性が仕事と家事の両立をしやすい勤務体系の整備が進んでいる。
「保守主義レジーム」でも、オランダにおいて、男女ともにパートタームで働くことで相互に仕事と家事の両立を図る「コンビネーション・シナリオ」が追求されている。
同J価値労働・同J賃金原則への収束第五は、「同一価値労働・同一貸金原則」への収束である。
先に指摘した四つの基本政策を矛盾なく行うためには、「同一価値労働・同一貸金」という原理が貰徹される必要があることを忘れてはならない。
アメリカにおいて雇用差別禁止法が制足され、属人を離れ仕事をベースに給与を決める「職務給制度」が基本になっていたのは、この原理に則ったものである。
また、欧州においては福祉レジームを問わず、「同一価値労働・同一貸金」は基本原理として尊重されてきた伝統がある。
例えば、スウェーデンにおいては、戦後の同国独自の経済政策のフレームとしての「レーン=メイドナー・モデル」の構成要素である「連帯賃金制度」の内容が、一九四一年に労働組合の総会で「同一価値労働・同一貸金」として明快に定義された(宮本[二〇〇二)。
それは、就業形態が異なることによる差別を排除することを意味している。
元来、就業形態の多様化は労働の二極化を生みやすい。
正社員・非正規社員間の賃金格差が大きい状況下、労働コストの安い非正規雇用を正社員に代替していくことは、一見コスト削減の視点からは合理的にみえるからである。
しかし、先進諸国が生活水準を維持・向上していくためには、付加価値の高い製品・サービスを不断に開発・提供していくことが不可欠である。
非正規労働といえども付加価値の高い仕事に就ことで、経済全体の生産性向上が達成されることが必要なのである。
しかも、非正規雇用の割合が高まる状況にあって、この視点の重要性は益々高まっている。
実際、非正規雇用比率の高い流通・外食産業では、パートタイマーの店長への登用を進めたり、アルバイトのキャリア・パスの仕組みを整える等、正社員と非正規社員の間の二重構造解滑に取り組みはじめている。
「同一価値労働・同一賃金」を貴くことは、就業形態にかかわらず能力開発を重視することを意味する。
そして、非正規雇用でも十分な職業能力を有し、それなくの賃金を得られるようになってはじめて仕事と家庭生活の両立が可能になる。
真の意味での「ワークフェア」社会を実現するためには、「フェア・ワーク(仕事に対する公平な処遇)」こそが鍵となるのである。
以上のような「ワーク・フェア」の構成原理の内容を吟味すると、それらはサービス産業化を推し進める方向に働くことがわかる。
就業形態の多様化はサービス産業化の前提である。
そして、勤労者の仕事と家事の両立支援は、サービス業への女性労働の供給を促進し、家事サービス業そのものを生み出す方向に作用する。
こうしてみれば、「ワーク・フェア」という考え方が、現実はどこまで実現できているかという点は別として、少なくとも理念のレベルでは、自由主義レジーム、社会民主主義レジームの双方における相対的に良好な経済パフォーマンスを支える基本原理となってきたということができよう。
「日本型ワーク・フェア社会」の構想本章では、第5章で紹介したスウェーデン、イギリスをはじめとした諸外国の経験を踏まえたうえで、わが国の国民生活基盤の再構築に向けての課題を具体的に提言する。
その際の基本となる理念は、序章および第5章にてオリジナルの概念を拡張する形で再定義した「ワーク・フェア」である。
本章ではまず、現在わが国が直面する様々な課題を解決するにあたって、それが有効であることを確認する。
そのうえで、「日本型ワーク・フェア社会」の実現に必要な具体的施策について、六つの政策メニューを提示する。
そして最後に、企業サイドからはどのように取り組んでいけばいいのかについてもふれておきたい。
わが国における「ワーク・フェア」の有効性諸問題に対する「ワーク・フェア」の効果第5章では「ワーク・フェア」の構成要素として、@就労形態の多様化、A職業訓練の重視、B福祉受給対象者に対する就労インセンティブ、C仕事と育児・家事の両立支援、D「同一価値労働・同一賃金原則」への収束、の五つを挙げた。
これらが実現されていけば、バブル崩壊以降、噴出してきた国民生活の基盤を揺るがす様々な問題とわけ、若年就労問題、働く期待される。
以下、その理由を確認しておこう。
に対し、解決の糸口が与えられることが若年就労問題への対応まず、若年就労問題については、「就労形態の多様化」と「職業訓練の重視」の組み合せにより、その解決が図られるであろう。
すでにみたように、若年就労の問題は将来の国力の帰趨を左右する重大問題であるが、それはこの問題が国民の平均的な職業能力の低下につながりかねないからである。
第2章でも指摘した通り、一般に、非正規社員に比べて正社員のほうが企業内部における職業訓練が十分になされる。
これは、企業が教育投資を行うのは、従業員が長期間その企業で働くことで、教育投資のリターンを十分回収できることが条件になるからである?このとき、雇用期間が短期に終わる非正規雇用に教育投資を行うインセンティブは働かない。
したがって、若年の正社員採用を極力増やすことが一見理想的な解決策のように思える。
しかし、国内外における企業間競争の激化のもと、新規事業のスピーディーな立ち上げや不採算事業からの迅速な撤退が企業生き残りのための不可欠な条件となっている。
そうした環境下では、将来のコア人材となることが期待される新卒採用は少数精鋭に絞込み、事業構造変化に応じて即戦力としての中途採用や非正規雇用を積極的に活用していくという傾向が強まることが予想される。
ここ数年に関してみれば、新卒大量採用が復活し、バブル期以来の「売手市場」となっているが、これは過去一〇年間若手正社員を減らしすぎたことの反動や、いわゆる二〇〇七年間題で「団塊の世代」が大量退職することに備えて正社員数を確保しようという企業の動きが背景にある。
しかしながら、事業環境の変化を勘案すれば、労働力の柔軟性を確保しておくことが必要であるし、外部から高度なスキルをスピーディーに調達したり、新たな発想を積極的に取り込むことがますます求められるようになっている。
つまり、いわゆる正社員比率の低下は趨勢的な傾向と考えられ、この場合、若手が全て正社員として就業できる環境づくりにこだわることを止め、むしろ非正規雇用であることを前提に十分な能力開発がなされる仕組みを積極的に整備していくという考え方に転換する以外に道はない。
つまり、「就労形態の多様化」によりともかく就労機会を増やすことが第一歩であり、そのうえで「職業訓練の重視」の理念のもとで能力開発につながる仕組みを整備することで、非正規雇用であっても一個の職業人として必要な経験・スキル・自覚を身に付ける環境を作り出すことが求められる。

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